王座の間に緊急謁見に招集されたラピスとクルハ。
騎士団と魔術兵団が見守る中王座を前に跪き頭を下げる。
その際ラピスはとんがり帽子を左手で胸に抱え静かに膝を折る。
「王国最高顧問魔道士ラピス、只今参りました。ルアド陛下、クルハより状況は伺っております」
ラピスは静まり返ったこの空間で淡々と王に口上を述べる。
クルハもそれに習うように淡々と「同じく弟子クルハ伝令の役を果たし戻りました」
恭しく王に伝える。
玉座に座るのは若くして王位を継いだ蒼王(そうおう)ルアド二世。
民を第一に考え、国を豊かにするため、農耕や製鉄、商人たちが商いをしやすい様な政策を打ち出し国民から敬われる賢き王である。
ラピスとはルアド二世が王子の頃からの長い縁で、ルアド王はラピスから国を繁栄させる様々な知識や教養を教えられていた。
始まりはラピスが旅に疲れこの国に流れてきた時に前王に王宮で務めを与える代わりに王宮に書庫と書斎を与え住まわせた事に始まり、前王が崩御された後も「古き友」と呼び手厚く王宮に置いた。
ルアド王は王座から一声発した。
「古き友らよ、面を上げよ」
王の発声により二人が顔を上げる。
神妙な面持ちのルアド王は告げる。
「ラピスよ、伝聞通り東側の小国が余の民を、国を侵略せしめようとしている。和平を申し出たが送り返した伝令は亡きものとされた。憂いである、力を貸してはくれまいか」
ラピスはすかさず。
「承知致します」
と真っ直ぐ玉座に目を向けて返す。
その眼差しは普段の温和な彼女からは程遠く凛とした姿勢だった。
王座の間は騎士団と魔術兵団達が、
沈黙してその一挙手一投足を見ていた。
「更にその国は魔女カランを迎え入れている」
王の言葉に沈黙していた周りの者たちがざわめく。
魔術兵団の一人が目を見開いて。
「殺戮の魔女カランはラピス様が封印された筈では!」
と声を漏らした。
騎士団の兵は、
「カランはラピス様の石化魔法にかかったはず、ラピス様の魔術がそんな小国の者に解呪されるはずがない!」
と大きな声を上げた。
騎士団長痺れを切らしてが声を張り上げる。
「皆のもの静まれ!国王陛下の御前で狼狽えるな、不敬であるぞ」
途端にざわめきは静まり、王が一言。
「よい、皆がこのような状況で穏やかでない事は余が重々承知している」
王は手を開いて騎士団長をなだめるようにした。
「それで、ラピス。解呪されたと言う事について何か思い当たる事はあるか」
ラピスは曇った顔で
「陛下、私は心当たりがございます」
と悲痛そうに答えた。
ルアド王はそれを見て冷静にラピスに命じる。
「述べてみよ」
ラピスは過去の話を語り出す。
もともとラピスは広大な森に囲まれた村に住んでいた。
この時代、魔女と呼ばれる強力な魔力を持った少女達が戦争の先陣を切って争いが絶えない長い動乱の時代が続いていた。
村は戦火から離れた山奥で、彼女は魔術などとは無縁のせいかつをしていた。
だが悲劇が起き、彼女は自分の異変に気づいた。
頬に魔女の烙印と言う傷が現れた。
魔女には例外なくこの烙印が身体の何処かに存在し、ある日突然浮かび上がる。
烙印が出たあとは強大な魔力を得た代わりに肉体の成長が止まり傷の回復力も異常になる。
彼女は気味悪がられて村を追放された。
どんなに空腹でも餓死しない地獄の苦しみにたえて山奥で野草を食べて飢えをしのいだ。
毒草を食べて苦しむ時もあったが彼女の身体は魔力により解毒されてしまい、そのうち野草について知識がついた
誰もいない山奥で彼女10年ほど暮らした。
山を通る商人に声をかけては食べられるものを渡して通貨を得ていた。
その通貨で他の商人から本を買い集め、簡易的な小屋を建ててそれらを保存。
魔術に対しても魔導書を読んで護身の為の魔術を覚えていった。
何十年もそこに住んだがやがて商人から噂を聞きつけた国の者が彼女の家を焼き払って無理やり連れ去り、攻撃に魔法の類を学ばせ前線に送り出した。
協力しなければ殺される、戦っても殺されかねない極限の境地。
彼女は決して死ぬことなく戦場で生き残った。
たくさんの兵士を殺し、その時に攻めてきたカランを協力な石化魔法で封じる。
彼女はその国から逃げ出し、追いかけられ続けることになるが、書庫で得た多くの知識を糧に追っ手を退け続けた。
やがて大陸の中央、蒼い旗の王国にたどり着く。
彼女はルアド王に拾われ、戦いより国を豊かにする知識を求め王国に招き入れられた。
最初はまた利用されるだけだと思ったが、この国の民の優しさに触れたラピスはこの国を守ることにした。
ここの国は長年隣国から何度も侵略を受けていたが賢い先代王により軍略に優れた采配で何とか退けていた。
ラピスは国を守るため魔術兵団に自らが蓄えた知識を授けた。
ラピスの生きる半世紀はカランを封印した壮絶な長い道のりだった。
しかし魔術は日々進化する。
多くの魔術は解読される。
石化魔法も高度な魔術だがとうとう解読されてしまったらしい。
彼女はその事実をルアド王に伝え、その上で更にこう言った。
「カランは戦いに身を置くことを喜びとし、命を奪うこともまた同じとします、よほど私が殺めず封じたのが憎いのでしょう。したがって彼女は私を狙いです」
再び玉座の間がざわめく。
「私は前王陛下に賜った恩がございます、この戦争は必ず早期に終わらせますカランを退ければ士気は下がります。陛下、ご決断を」
ルアド王は力強い眼差しでラピスを見た。
「兵を集めよ!東門前の砦にて敵を迎撃する!魔導兵団はラピスの指揮に従え」
ルアド王が高らかに命じると慌ただしく玉座の間の兵士たちは列をなし玉座から出ていった。
隣で沈黙していたクルハが立ち上がり王に一礼して師であるラピスを見た。
彼女は穏やかな笑顔で。
「大丈夫ですよ、クルハ」
クルハは少し目をそらしその笑顔にほんの少し顔を赤らめて。
「自分は先生が争いを好まないのに戦いに出るのが心配です。少しのためらいが死に至る。それも魔女カランが復活しているなんて」
ラピスは少しだけうつむいた。
「私はこの国が好きですこの国の民も王も守るのが顧問魔術師の務めです。私を信じなさい、クルハ必ず最小の犠牲で戦いを終わらせます。」
クルハはラピスを見た。
少しだけ憂いのある師の顔にクルハは不安で時分の法衣の胸元を弱く握った。